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この記事では、以下についてご紹介します。

  • ソフトウェア定義の概要、特に自動車におけるソフトウェア定義の概要について。

  • オープンソースおよび Linux を利用して車載機能を提供する方法について。

  • ソフトウェア定義自動車に対する Red Hat のビジョンおよびオープンソースのコントリビューターがどのように貢献できるかについて。


夢のクルマづくりは、馬力や内装の仕上がりといった要素だけの話ではなくなってきています。自動車業界は、電気自動車市場が活性化し、エッジコンピューティングによる車両コネクティビティーの新機能が拡張されるなど、大きな変化を遂げています。

Red Hat では、無線アクセスネットワークのコアネットワークインフラストラクチャーを備えた通信に関するユースケースから、小売環境や製造環境で用いる分散コンピューティングにいたるまで、エッジを使用した多数のユースケースの実現に向けて取り組んでいます。

今年の Red Hat Summit で行われた Ask the Experts セッションの「Automotive transformation to software-defined vehicles」では、究極のエッジサーバーとしての自動車について、そして急速に進化するこの業界における Red Hat および他のオープンソースコントリビューターの役割について議論しました。この記事では、このセッションのハイライトをいくつかご紹介します。

はじめに - ソフトウェア定義自動車とは?

何かをソフトウェアで定義するということは、既存のハードウェアプラットフォームで、ファームウェアまたは ROM などにハードコーディングされている可能性のある機能を移動して、それらを標準化されたハードウェア上で実行されるソフトウェアレイヤーに組み込むことを意味します。ソフトウェアレイヤーにより、新しいソフトウェア定義の機能を導入することもできます。

現在すでに存在する最もシンプルなバージョンは、アプリストアだったり、携帯電話に接続してインフォテインメントシステム用にさまざまなオーディオストリームを利用できる機能だったりします。

これらもソフトウェア定義ではありますが、ここで話題にしているソフトウェア定義のレベルには遠く及びません。ソフトウェア定義自動車は、インストルメントクラスターや先進運転支援システム (ADAS: Advanced driver-assistance systems) など、運転を可能にする自動車の中核的な部分を網羅しています。これらすべてをソフトウェアプラットフォーム上に実装することで、相手先ブランド製造 (OEM: Original Equipment Manufacturing) や、その Tier 1 のインテグレーターおよびサプライチェーンは、ハードウェアが同じままの場合でも、ソリューションを構成するソフトウェアコンポーネントを簡単に選択して変更することができます。

以前は、ソフトウェアが上部に配置されたハードウェアによって自動車が定義されていましたが、現在はその逆へと状況がシフトしています。Tesla のような企業は、まずソフトウェアを構築し、次にそのソフトウェアを中心に自動車を製造しています。つまり、車両オペレーションセンターや車両ソフトウェアプラットフォームの重要性が高まってきていることがわかります。

現在の車両アーキテクチャーでは、それぞれが特定のユースケース (電動シートの位置や ABS 機能の制御など) に合わせて開発された 150 個以上の小さなコンピューター、つまり電子制御ユニット (ECU: Electronic Control Unit) が並行して動作し、カスタムメイドの設計を採用しています。

自動車業界は、機能安全のすべての要件を満たしながら (つまり、シートの位置を変更してもブレーキやインストルメントクラスターの機能に影響を及ぼすことなく)、これらの ECU を、多数の機能を提供する少数の強力な計算ユニットに統合する方向に向かっています。

自動車メーカー (OEM) 内のさまざまな部門は、従来の Tier 1 サプライヤーに対して独自の ECU を搭載した電動シートシステムの設計を依頼さえすればよいわけではなくなりました。今後は、車載プラットフォームの共通化および標準化された手法に向け、ソフトウェア開発を調整していく必要があります。

車載データセンター

複数の画面、マルチゾーンオーディオ、高度なストリーミング、高度なマッピング、ヘッドアップディスプレイなどを制御できるインフォテインメントプラットフォームなど、より多くの機能が提供されるにつれ、データセンターのコンバージェンスが車内で起こっています。

たとえば、運転の自動化とゾーン制御を実現する先進運転支援システム (ADAS) やテレマティクスシステムなどは、それぞれ別の計算システムで、車両に搭載された多数の ECU にまたがって提供されています。しかし現在、これらのシステムは、ほんの数台とはいえ、サーバーによく似た、より強力なシステム (ECU コンソリデーション) に集約されています。

自動車の機能がパワーアップされるにつれ、サーバーやデータセンターが直面する問題にも直面することになります。つまり、常にセキュリティーを更新し、継続的な機能更新を求めるお客様の期待に応えなければなりません。

ソフトウェア定義自動車の未来は、エッジコンピューティングの未来でもあります。企業がオープンハイブリッドクラウド戦略に移行し、エッジコンピューティング機能を活用しているように、車載データセンターである自動車も、エッジコンピューティングの代表的な例になろうとしています。

ソフトウェア定義自動車は、エッジコンピューティング戦略の基本的なコンポーネントですが、この戦略には、車両内のコンポーネントだけでなく、車内で行われる操作をサポートするネットワークとクラウドも含まれます。

近い将来のオートモーティブエッジは、最新の Linuxベースのオペレーティングシステムと、オープンソースとプロプライエタリーなコンポーネントから成る最新のエコシステムで構成され、ハードウェアとソフトウェアコンポーネントの選択肢と俊敏性を提供するために連携していくものと考えられます。また、ソフトウェアの配信と更新を (車両搭載) バックエンドから車両内に実施する最先端のソフトウェアパターンの需要も増えていくでしょう。

Linux ベースのプラットフォームで安全運転

Red Hat は、Linux、コンテナー、ミドルウェア統合、および DevOps アーキテクチャーなど、オートモーティブエッジに必要なテクノロジーをすでに熟知しています。では、エンタープライズオープンソースレイヤーの構築を支援し、オンボードからオフボードで自動車を走行させるには、私たちの経験をどのように活かせばよいでしょうか?

自動車メーカーは、機能の差別化と統合の両方に重点を置く必要があります。OEM がこれらの技術をどのように最適化し、自律走行車、電気自動車、コネクテッドカーに対するお客様への期待に応えられるのかを検討できるよう、Red Hat は支援します。

ソフトウェア定義自動車は、再利用可能で迅速に統合されるソフトウェアコンポーネントおよび標準化に対する需要を促進する立場にあります。また、仮想化、コンテナー、Linux、オープンソースなど (いずれもオフボード領域) の最先端のモデルを車両に搭載することに対しても、大きなニーズがあります。

Red Hat では、Linux ベースのオペレーティングシステムを搭載した車両プラットフォームの基礎を構築し、その上でアプリケーションやサービスが安全に実行できるようにすることを目標としています。Red Hat は今年、機能安全認証パートナーである exida と連携し、車載 Linux プラットフォームを提供する意向を 発表 しました。

車両でのユースケースが厳しいものだということは、認識しています。これには、自動車の電子システムの機能安全を規定する国際規格である ISO 26262 などの認証が必要です。exida との連携は、認証取得へ向けた準備をする上で役に立ちます。

Red Hat では、自動車業界の他のベンダーと連携し、Linux を基盤とするブループリントやオープンコンポーネントを作成することを想定しています。車両自体のアプリケーションプロバイダーを持つ統合パートナーと協力し、自動車メーカーとも協力したいと考えています。オープンなエコシステムのアプローチにより、自動車業界を前進させることが可能となります。

標準化でオープンソースの扉が開く

自動車業界は、コモディティー機能とベース機能の分野を開放しています。自動車のオンボードとオフボードの環境を、垂直統合型から継続的なオープンソースイノベーションへと変えるチャンスがあります。Red Hat が業界にもたらす利点のひとつは、オープンソースコミュニティーに精通していることです。オープンソースコミュニティーは標準化をサポートし、柔軟性を高めることができます。

オープンソースとは、基本的にコラボレーションのことを指します。基本コンポーネントや基盤技術を連携して開発することで、ソフトウェア企業が独自のサイロ化されたスタックを開発するよりもはるかに迅速に、真に差別化されたエクスペリエンスを構築することができます。

Genivi や Automotive Grade Linux (AGL) などの既存の組織は、標準規格またはソフトウェアのいずれかを構築して、自動車用ミドルウェアを提供しています。しかし、車体制御などの抽象的概念はすでに標準化されており、これは自動車メーカーの差別化されたエクスペリエンスの基礎を定義するようなレベルにまで成長し続けるものと考えられます。

最終的には、標準化され、既製のハードウェアコンポーネントを使用できるようになることが期待されています。新しいソフトウェア機能を導入する際には、より柔軟な対応が可能になると思われるので、新しい機能を取得するために新しい車を用意するということはなくなるでしょう。

つまり、オープンソースコントリビューターとして貢献する方法はたくさんあるということです。

オープンソースコントリビューターの貢献方法

製品化が進むにつれ、搭載されるコンポーネントが明らかになってきます。マルチゾーンオーディオ、マルチゾーンカメラ、ARM や RISC-V プラットフォーム向けの追加ハードウェアサポートなどのインフォテインメントプラットフォーム技術は、おそらくすべて車両に搭載されることになるでしょう。

Linux デスクトップエクスペリエンスの向上に関心があるのであれば、インフォテインメントの観点から、その機能のほぼすべてが車両にも適用されることになります。ADAS のアクセラレーターをサポートし、Linux にさらなるプラットフォームイネーブルメントをもたらすものであれば基本的にはどれでも、何らかの形で自動車に搭載されることになるでしょう。

Red Hat では、自動車関連の社内チームを編成する際に多数のエンジニアを募集する予定でいますので、ご関心のある方は Red Hat の求人 ページをこまめにチェックしてください。

自動車の未来を展望する

企業の IT 部門や工場では、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが進んでおり、Red Hat では、お客様のハイブリッドクラウドやマルチクラウドへの移行を支援してきました。自動車におけるデジタルトランスフォーメーションは、製品である自動車そのもので行われます。

Red Hat では、自動車業界と協力し、業界がハードウェアテクノロジーからソフトウェア定義のテクノロジーへとシフトするサポートを提供しています。データセンターの知識を新しいユースケースに導入していますが、Linux の中核部分も引き続き使用されています。

ソフトウェア定義自動車の最先端の機能をいくつか紹介してきましたが、Linux ベースの中央コンピューターを搭載した車を運転するには、Linux のシステム管理者でなければならないでしょうか?もちろん、そんなことはありません。今日の Android スマートフォンユーザーのように、ほとんどの人は、自動車にフル機能の Linux システムが搭載されていることにまったく気づいていないでしょう。

通信ネットワークエッジで Red Hat の 5G vRAN が採用されていることや、業界でのユースケースにより、コネクティビティー、パーソナライゼーション、およびセキュリティーを求める新世代の自動車購入者に対して、ソフトウェア定義自動車を提供する際に役立つ視点を提供することができます。

本セッションでは、ソフトウェア定義自動車の基本から、将来的な車両の更新、既存システムとの互換性、そしてこの新しい技術でのソフトウェアセキュリティーの扱い方まで、多くの内容をカバーしました。詳細については、Ask the Experts セッションの 録画 をご覧ください。オンデマンドで 2022 年 5 月までご視聴いただけます。また、信頼できる機能安全認証支援コンサルティング企業の exida との取り組みについては、こちらの 発表 をご覧ください。


執筆者紹介

Harald Ruckriegel is the EMEA Automotive Vertical Chief Technologist at Red Hat, where he develops the go-to-market strategy for Automotive and maps customer requirements to the Red Hat portfolio with the development of the appropriate business solutions.

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Part of Red Hat's Office of the CTO, Jered Floyd helps define technology strategy at the intersection of emerging trends and Red Hat's enterprise businesses. His current focus is on using edge computing to extend the open hybrid cloud to locations beyond the data center, enabling new, distributed applications on top of Red Hat's trusted platforms.

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Wolfram Richter manages the teams of Chief Architects and Manufacturing Solution Architects in Red Hat Germany's sales team, which is responsible for solution design across the entire Red Hat portfolio. Richter and his team consult clients on how open source solutions and open source approaches address the needs of automotive other equipment manufacturers (OEMs), suppliers, and manufacturing in general across diverse technology domains such as cloud and edge computing, software-defined datacenters, data and application integration, Internet of Things, machine learning, and simulation.

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